学生時代に力を入れたことを書き出して、そこから「粘り強さ」という言葉を取り出しました。面接でも使いました。ただ、口に出した瞬間、どうも自分の話に聞こえませんでした。
転職を考えて、自己分析の本を買いました。最初の設問で止まって、そのまま二ヶ月開いていません。
診断ツールも三つやりました。結果はどれも当たっている気がします。それでも、では何をすればいいのかは、分からないままです。
こうなるのは、真面目にやらなかったからではありません。自己分析が何のための作業なのかを説明されないまま、作業だけが渡されているからです。目的が分からなければ、どこまでやれば終わりかも分かりません。
自己分析については、はっきりさせておきたいことが三つあります。何のためにやるのか。何が出てきたら終わりなのか。どこまで掘れば足りるのか。
この三つに答えるために、経営戦略の枠組みを使います。企業が自社を分析するときの道具は、実は個人にもほとんどそのまま使えます。
自己分析は、就活の作業ではなく、戦略の一段目
企業が戦略を立てるとき、最初にやることは二つに絞られます。一つは、自社が何を持っているかを確かめること。もう一つは、それをどこで使うかを決めることです。持ち物と、戦う場所。この二つです。
キャリアも、同じ構造をしています。たとえば、持ち物を確かめずに場所だけ選ぶと、入った先で使えるものがありません。逆に、持ち物だけ磨いて場所を選ばなければ、その価値は誰にも届きません。どちらか片方では足りない、ということです。
就職活動や転職活動で自己分析をやれと言われるのは、これが一段目にあたるからです。ただ、そう説明されることはほとんどありません。だから多くの場合、性格を言葉にする作業として処理されて、そこで終わります。
そして、この順番には理由があります。持っているものが分からなければ、取りうる策が決まらないからです。手札を見ずに勝負の場所を決める人はいません。
経営戦略は、二つの問いでできている
ここで、経営戦略の側の話を少しだけします。
戦略の議論は、長いあいだ二つの立場に分かれてきました。
一つは、ポジショニングの考え方です。マイケル・ポーターが体系化しました。どの市場を選ぶかで収益性の大半が決まる、という立場です。つまり、同じだけ努力をしても、儲かる構造の場所とそうでない場所とでは結果が変わってしまう、ということです。
もう一つは、資源に注目する考え方です。リソース・ベースト・ビューと呼ばれます。ワーナーフェルトが1984年に提唱し、ジェイ・バーニーが1991年に整理しました。こちらは、同じ市場にいる会社でも成績が違うのは、持っている資源が違うからだ、という立場になります。
この二つは長く対立してきましたが、実務ではどちらも使います。そして、使う順番があります。まず資源、次にポジションです。
キャリアに置き換えると、こうなります。
- —資源=自分が持っているもの。資質、性格、専門性、経験、人との関係
- —ポジション=それを使う場所。業界、職種、会社、役割
自己分析は、このうちの前者にあたります。ここを飛ばしてしまうと、二段目の選択がどうしても勘になります。
持ち物の価値は、四つの条件で決まる
では、その持ち物の価値は、どう測ればいいのか。
バーニーは、資源が競争優位につながるかどうかを四つの条件で判定する枠組みを示しました。VRIOと呼ばれるものです。
- —Value(価値):それは誰かの役に立つか
- —Rarity(希少性):持っている人は少ないか
- —Inimitability(模倣困難性):他人が真似できないか
- —Organization(組織):それを活かせる体制になっているか
一つずつ、個人に当てはめていきます。
V:そもそも、誰かの役に立つか
まずは価値です。
価値は、持っている側ではなく需要の側にあります。誰かの困りごとを減らすか、誰かの欲しいものを増やすか。そのどちらでもないものは、どれだけ珍しくても価値になりません。
自己分析でよく起きるのは、ここが埋まらないまま終わることです。たとえば「几帳面」「粘り強い」「人の話を聞ける」。形容詞は出てきますが、それが誰の何を助けるのかまでは接続されていません。接続されていない形容詞は、価値の候補であって、まだ価値ではない、ということになります。
だからVを埋める作業は、性格を言い当てることではありません。その性格がどんな場面で誰の役に立ったかを、一つずつ思い出していく作業になります。
R:持っている人が、少ないか
次に希少性です。
価値は絶対量では決まりません。需要と供給の関係で決まります。たとえばコンビニの水は100円ほどで買えますが、砂漠では10,000円出しても買えないかもしれません。水そのものの性質は、何も変わっていません。供給が減っただけです。
そして、キャリアでも同じことが起きます。分かりやすいのが、いまのAI人材です。
PwCが27の国と地域で10億件を超える求人広告を分析した「2026 Global AI Jobs Barometer」によれば、AIスキルを求める求人は、同じ職種でそれを求めない求人に比べて、平均62%高い賃金を提示しています。前年は57%、その前は25%でした。つまり二年で、差が倍以上に開いたことになります。
これは、希少性が効いている状態だといえます。需要の伸びに、供給が追いついていません。
ただし、希少性には一つ性質があります。減っていくのです。
というのも、高いリターンが見えると、人が集まるからです。そして集まった分だけ、希少性は薄れていきます。同じことは、かつてITでも起きました。ITが広がったあと、世界中の大学で情報系の学部と学生が増えていきました。
ところが今、その分野で逆向きの動きが出ています。アメリカの四年制大学におけるコンピュータサイエンス系の学部在籍者は、2026年春に前年比で8.4%減りました(National Student Clearinghouse Research Center)。約20年ぶりの減少です。かつて「この学科を出れば一生安泰」と言われた分野で、ニューヨーク連邦準備銀行の2025年時点のデータでは、専攻別の失業率が6.1%と高い部類に入っています。
もっとも、数字の読み方には注意が要ります。 この減少はAIによる代替だけが原因ではありません。学生の関心がAI系のコースへ移ったこと、テック業界の採用縮小が重なったことなど、複数の要因が同時に動いています。因果を一つに絞ることはできません。
それでも、構造として言えることはあります。希少性は市場が決めるものであり、時間とともに動く、ということです。
実際、2025年にAI人材の市場価値が非常に高かったのは事実です。では10年後はどうか。これは誰にも断言できません。ただ、これまでの技術の歴史を見るかぎり、相応の水準まで下りてくる可能性はあります。これは予測であって、事実ではありません。
とはいえ、ここから引き出せる結論は「AIを学ぶな」ではありません。62%のプレミアムは、今なら取れます。言えるのは、希少性に乗った価値は、市場の都合で動くということだけです。それを知ったうえで乗るのと、知らずに乗るのとでは、次の一手が変わってきます。
I:他の人には、真似できないか
さて、三つ目です。
VとRは、市場が決めます。ところが、このIだけは性質が違います。
バーニーは、模倣が難しくなる理由を三つ挙げています。
- 1独自の歴史的条件 ── その資源が生まれた経緯が一回きりで、後から同じ道を通れない
- 2因果の曖昧さ ── なぜそれが成果につながるのか、持っている本人にも説明しきれない
- 3社会的な複雑さ ── 人間関係や信頼のように、買ってきて組み立てられない
これも、個人に置き換えるとそのまま読めます。
一つ目。あなたの資質は、あなたが通ってきた出来事の積み重ねからできています。同じ順番で同じ経験をした人は、他にいません。
二つ目。「なぜかあの人に頼むとうまくいく」の理由は、頼まれている本人も説明できていないことが多いものです。説明できていないので、真似のしようがありません。
三つ目。誰とどう働いてきたかは、履歴書に書けても、単体では持ち出せません。
たとえば、おしゃべりが好きで、何時間でも、どんな相手とも話し続けられる人がいるとします。これは資格のように取得できません。研修で身につく種類のものでもありません。だから模倣困難性が高い。誰かが簡単に真似できないというのは、それだけで価値になります。
ここが、このコラムでいちばん言いたいところです。
VとRは市場が決めます。
Iは、自分の歴史が決めます。
つまり、市場が決めるものを追いかけていると、市場が変わるたびに作り直しになります。一方、自分の歴史から出てきたものは、市場が変わっても減りません。
もちろん、Iだけあれば十分ということではありません。真似できないだけで誰の役にも立たないものは、やはり価値にならないからです。VとRとの組み合わせが要ります。ただ、三つのうち自分で仕込めるのはIだけです。しかもIは、掘り出すのに時間がかかります。だからこそ、先に手をつける意味があると考えています。
O:持っているだけでは、価値にならない
四つ目のOは、もともと組織の話です。優れた資源を持っていても、それを活かす仕組みや体制がなければ成果にならない、という条件になります。個人にそのまま当てはめることはできません。
ただ、翻訳することはできます。資質は、発揮できる場所と使い方に自分を置いて、初めて価値になる、という話です。
たとえば、何時間でも話し続けられる人が、一日中誰とも話さない仕事に就いていたとします。その資質は成果に変わりません。持っていることと、使えていることは別だ、ということです。
そして、この「どこに自分を置くか」が、戦略のもう一つの問いに直結します。ここからは、場所の話に移ります。
ポジショニング:同じ持ち物でも、場所で価値が変わる
英語が話せる人を例にします。
外資系の、社員全員が英語を使える会社に入る。これも一つの選択です。ただ、その環境では英語は前提条件になります。よほどの水準でないかぎり、その会社の中では一般的な能力であって、希少ではありません。
一方で、社内に英語を使える人がほとんどいない日本企業があるとします。最近になって海外との取引が始まり、対応できる人材を探している。そういう場所に入れば、同じ英語力がまったく違う扱いを受けます。
要するに、能力は同じです。変わったのは、周囲の供給量だけです。
だからポジショニングとは、努力の量を増やす作業ではなく、自分の持ち物がいちばん希少になる場所を探す作業だといえます。同じ持ち物のまま結果が変わるのですから、費用対効果は極めて高いことになります。
ニッチと掛け算 ── ただし、掛けるだけでは足りない
そして、自分の持ち物が希少になる場所を探していくと、もう一つ効果が出てきます。将来のポートフォリオを考える材料が手に入ることです。
有名な整理として、藤原和博氏の「100万分の1の人材」があります。一つの分野に約1万時間かけて、100人に1人の水準になる。それを分野を変えて三回繰り返す。100分の1を三つ掛けると、100万分の1になる。縦の競争で一位を取るのではなく、平面上で独自の位置を取る、という考え方です。
この整理は有効です。たとえば「英語×IT」の人はたくさんいますが、「英語×IT×獣医」となると、ほとんどいません。英語が話せる獣医の方がITを身につければ、その人にしかできない仕事が一気に増える可能性があります。
ただし、掛け算には条件が一つあります。
掛け合わせた先に、需要があること。
希少性は必要条件であって、十分条件ではないからです。VRIOの言葉でいえば、Rだけを高めてVがゼロなら、価値もゼロになります。誰も必要としない三つの組み合わせは、ただ珍しいだけの状態です。
だから三つ目を選ぶときには、二つを同時に見ることになります。自分の歴史から出てきたもの(I)と、それを必要としている場所(V)です。この二つが重なるところが、探すべきニッチだといえます。
それでも、自己分析はたいてい浅いところで終わる
ここまでの整理をふまえると、自己分析は「性格を言葉にする作業」ではなく、「戦略の材料をそろえる作業」だということになります。
ところが、一人でやる自己分析は、往々にして考える深さと幅が足りません。解像度が低いまま終わってしまいます。
これは印象論ではありません。マイナビが2023年卒の大学生・大学院生に「年内にやっておけばよかった、もっと時間をかければよかったと思う就活準備」を聞いた調査では、最も多かった回答が自己分析で57.9%でした。同社は、就職活動を終えた人に同じ質問をしても、毎回この回答の割合が高くなると述べています。
つまり、やり終えた側が、後から足りなかったと言っている。それが自己分析という工程の実態です。
理由は、三つあると考えています。
深さが足りない。 出来事を思い出して、そこから形容詞を一つ取り出したところで止まります。「粘り強い」まで来て、なぜそう動いたのか、その資質がいつどんな場面で表に出るのか、そこまでは降りません。形容詞のままなので、どの場所で効くのかも決まりません。
幅が足りない。 思い出せる範囲でしか、材料が出てきません。自分では当たり前すぎて資質だと思っていないものは、自分からは出てこないからです。ここで効いてくるのが、模倣困難性の二つ目、「本人にも理由が説明できない」です。説明できないものは、一人では取り出せません。
検証がない。 出した答えが妥当かどうかを、確かめる相手がいません。一人でやると、最初に出た仮説がそのまま結論になります。
では、どうやるか。過去・現在・未来の三方向から掘る
そこで、以下の四つのstepを順に進めます。現在・過去・未来の三つの方向から、自分を分析していく形です。VRIOのどこに対応するかも、併せて書いていきます。
step1 自分の資質を知る(現在地をつかむ)
日々の言動の多くは、資質に紐づいています。だからまずは、その資質が日常でどう生きているかを知ります。
問うべきことは、順に五つです。
- —そもそも、その資質を自覚できていたか
- —日々の行動パターンとして表れているか
- —具体的にいつ、どんな場面で表出するか
- —それが、誰の何の役に立っているか
- —十分に発揮できていると思うか
四つ目まで来て、ようやくVが埋まります。「几帳面」で止めず、「いつ・どこで・誰の何を助けたか」まで降ろすわけです。そして五つ目は、後のstep4につながります。持っているのに使えていない資質が、いちばん伸びしろが大きいからです。
step2 過去に意味を与える(模倣困難性の源泉を掘る)
次に、自分の資質を形成してきた過去の出来事を発見し、その一つひとつに意味を見出していきます。資質の起源を知ることで、資質はより強固なものになります。
理論の側から言えば、ここが本丸だといえます。模倣困難性の第一の源泉は「独自の歴史的条件」でした。他人が真似できない理由は、あなたが通ってきた経路が一回きりだからです。その経路を言葉にする作業が、このstep2にあたります。
面接で自分の言葉が他人事に聞こえるのも、たいていはここが抜けているからです。形容詞に起源がないと、どこかで借りてきた言葉に聞こえてしまいます。逆に、起源まで掘れた資質は、説明の途中で自分の話に戻ってきます。
step3 未来を組み立てる(時間の投資先を決める)
そのうえで、自分の資質をもとに、なりたい自分、進みたい未来を描きます。
資質は相対的な強みであると同時に、たいていの場合は自分の好きなことでもあります。好きこそものの上手なれと言うように、好きなことに時間を使ったほうが積み上がります。そして積み上がった先で、資質はさらに強化されていきます。
ここは、時間の配分の話でもあります。先ほど1万時間という単位が出てきましたが、人が一つの分野に注げる時間には限りがあります。だから投資先を決めること自体が、すでにポジショニングになっているわけです。
より一層、自分の資質を研ぎ澄ませていったとき、どういう自分になりたいのか。どんな未来を作りたいのか。ここを具体化します。
step4 一歩を踏み出す(使える形に置く)
最後に、具体化した未来へ行き着くには、実際に歩を進めなければなりません。描いた未来が果てしなく遠くても、まず一歩を踏み出さなければ始まらないからです。
だから、ざっくりとしたロードマップを作ります。小さな目標と、そこに向かうためのアクションを、今日から実践していきます。
ここでVRIOのOに戻ります。持っている資源は、使われて初めて価値になります。step1からstep3までで手に入るのは、あくまで材料です。step4は、その材料を使える場所に置く工程だといえます。
自己分析とは、何をする作業なのか
冒頭の三つの問いに戻ります。
何のためにやるのか。 戦略の一段目だからです。持ち物が分からなければ、どこで戦うかを決められません。自己分析は、性格を言葉にする作業ではなく、戦略の材料をそろえる作業です。
何が出てきたら終わりなのか。 四つです。誰の役に立つのか(V)。持っている人は少ないのか(R)。なぜ他人には真似できないのか(I)。それを発揮できる場所に自分を置けているか(運用)。この四つが埋まって、初めて材料がそろいます。形容詞が三つ出てきただけでは、まだ何も決まっていません。
どこまで掘れば足りるのか。 起源までです。模倣困難性の源泉は、あなたが通ってきた経路が一回きりであることにありました。だから、資質を言い当てたところで止めず、それがどの出来事から来ているのかまで降ります。ここまで降りた資質だけが、市場が変わっても減りません。
一文にすると、こうなります。
自己分析とは、市場が変わっても減らないものを
自分の歴史から取り出し、それが誰の役に立つのかを決め、
使える場所に自分を置くまでの、一連の工程です。
就職活動のためでも、転職活動のためでもありません。順番として、その前に来るものです。
この四つのstepを、50の問いにしています
最後に、平民Laboの話を少しだけ書きます。
以上の四つのstepを、より確実に、再現性高くやり遂げるために、コーチングのコースとして「深層自己分析コース」を作りました。全4回、各回1step、合計50問の問いにまとめてあります。
最初の10問は、以下のページで公開しています。50問の全体版は、LINEからダウンロードできます。
一人でやり切れる方は、一人でやってかまいません。この四つのstepは、そういう構造で作ってあります。
途中で止まりそうなら、無料相談(50分・オンライン)で一緒に分解します。その場で契約をお願いすることはありません。
このコラムで参照した出典
- —ジェイ・B・バーニー『企業戦略論』(VRIOフレームワーク、模倣困難性の源泉)
- —マイケル・E・ポーター『競争の戦略』(ポジショニング)
- —B. Wernerfelt (1984), J. Barney (1991)(リソース・ベースト・ビュー)
- —PwC「2026 Global AI Jobs Barometer」(AIスキルの賃金プレミアム62%、27の国と地域・10億件超の求人広告を分析)
- —National Student Clearinghouse Research Center(米四年制大学のコンピュータサイエンス系学部在籍者、2026年春に前年比8.4%減)
- —ニューヨーク連邦準備銀行(2025年時点の専攻別失業率)
- —藤原和博『10年後、君に仕事はあるのか?』ほか(100万分の1の人材、キャリアの大三角形)
- —マイナビ「2023年卒大学生 インターンシップ・就職活動準備実態調査(12月)」(自己分析57.9%)